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『春の戴冠 2』

懸賞 2009年 03月 19日 懸賞

『春の戴冠 2』_f0179663_135040.jpg辻邦生のルネサンス期のフィレンツェを舞台にした長編歴史小説の2巻を読了。

この当時のフィレンツェについては、前回もご紹介しましたがアヤコさんの「わが友マキアヴェッリ」の世界をご参照ください。



豪華王イル・マニーフィコと言われたロレンツォ・デ・メディチが町の政治を握ってから、フィオレンツァはますます華やかになっていく。1年中賑やかで華やかな祝祭の気分にあふれたフィオレンツァは、まさに「メディチの春」を謳歌していた。
また、上流階級の間にギリシャ古典の学習熱が高まり、ロレンツォの別荘でマルシリオ・フィチーノを中心にしたプラトン・アカデミーが創設され、プラトンの生誕を祝い、ギリシャ哲学の議論が盛んに行われた。

このような知的、文化的、芸術的なフィオレンツァの「メディチの春」が最高潮に達したのは、ロレンツォの弟ジュリアーノが出場した1475年のサンタ・クローチェ広場での馬上槍試合だった。広場全体の舞台装置の制作、騎馬隊の衣装や装飾をサンドロ(ボッティチェッリ)はじめ名だたる芸術家の親方たちが担当し、まるで絢爛たる絵巻物のようだった。
馬上槍試合で主席貴婦人の役を務めたのは、ジュリアーノの恋人のシモネッタ・ヴェスプッチ。彼女の美しさはアンジェロ・ポリツィアーノの詩「美しきシモネッタ」にも代表され、サンドロも何枚も肖像画を描き、フィオレンツァの町中が熱狂した。

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美しきシモネッタの肖像
サンドロ・ボッティチェリ(1480-1485作)
丸紅アートコレクション(日本にある唯一のサンドロの作品)

しかし、シモネッタが結核に侵されて余命いくばくもないことを知ったサンドロは、彼女の美しさを永遠にこの世にとどめるために一枚の大作を描く。散々苦悩しながらようやく描き上げたのは「ヴィーナスの統治」、後に「春」と呼ばれる不朽の名作だった。
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サンドロ・ボッティチェッリ「春」 ウフィッツィ美術館

まもなくシモネッタはこの世を去り、それと期を同じくするかのように、メディチ商会の経営が危機に陥る。メディチの没落はすなわちフィオレンツァ全体の衰退へとつながっていく。

というわけで、とにかく豪華絢爛な「メディチの春」。
毎日がお祭り騒ぎ、しかも、復活祭やキリスト降誕祭、諸聖人の祝日というカトリックのお祭りなのに、ひたすらギリシャ古典風味の衣装や演出で、絵画などの芸術作品も、聖書の題材をギリシャ神話風にアレンジするのは当たり前の感覚でした。

またこの時期になると、ロレンツォの祖父の老コシモの時代のように教会や屋敷などの建築物などに投資が行われたわけではなく、もっぱらその場限りの祝祭の演出など、「形に残らないもの」にお金が浪費されるようになります。

でもキリスト教とギリシャ古典の融和というのは、日本で言えば平安時代以降の神仏混淆みたいなものなのかな?とも思いますが、このようなフィオレンツァの町の雰囲気は、中世的な厳格なキリスト教的視点から見たら、まさに「異教徒」そのものにしか見えないのでしょう。この後、狂信者サヴォナローラが登場してくる土台もひそかに育まれているのを改めて感じました。

by ciao_firenze | 2009-03-19 13:59 |

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