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『カスティリオーネの庭』

懸賞 2012年 09月 01日 懸賞

『カスティリオーネの庭』_f0179663_211198.jpg中野美代子の『カスティリオーネの庭』を読みました。

清朝最盛期、18世紀をほぼすべてに渡って広大な領地を支配した乾隆帝に仕えたイタリア人のジュゼッペ・カスティリオーネ。本来はイエズス会士としてカトリックの布教のためにはるばる中国にやってきた宣教師でしたが、実際は宮廷画家の仕事をしていました。中国国内での布教を禁止された他のイエズス会士たちも、噴水、庭園、時計、建築などの西洋の文物・技術を伝えました。

朗世寧という中国名で、乾隆帝やその皇妃、子供たちの肖像画をたくさん描いたカスティリオーネですが、「皇帝の顔に影を描いてはならない」と言われたため、皇帝や皇妃たちは常に真っ正面を向き、のっぺりした表情のない顔立ちです。皇帝が騎乗している馬が、西洋画そのものの技法であることと比べても、その違いは明らかです。

他の西洋人イエズス会士たちと建てた西洋建築も、ローマのカピトリーノ宮殿やスペイン階段で有名なトリニダ・ディ・モンテ教会そっくりなのに、当然ながら教会ではないので十字架や鐘楼は載せることはできず、中国宮殿式の屋根瓦を乗せなければならない、などなど、「中華(=世界の中心)帝国」を支配する偉大な皇帝との目に見えない軋轢を、ミステリー仕立てのストーリーと絡めて描いています。
ちなみにカスティリオーネたちの苦心の作である西洋庭園の円明園は、残念なことにアヘン戦争の時に西洋列強に徹底的に破壊されてしまいました。

ローマのジェズ教会、サンティニャーツィオ教会、トリニタ・ディ・モンテ教会、ローマ郊外のティボリのエステ荘やハドリアヌス帝の別荘などなど、ローマ好きの私にはおなじみの場所や建築物が出てくるので、円明園の様子が容易に目に浮かびます。

ただ、晩年のカスティリオーネがシナに渡ってきて乾隆帝に仕えるようになった昔を振り返っているという設定なのですが、彼の作品や西洋楼の詳細な説明が間に入ってきて、時系列がはっきりしなくてなんとも読みにくかったです。
ミステリーも伏線なのか主題なのか、その位置が曖昧で、中途半端な印象。

ところでこのカスティリオーネは、浅田次郎の『蒼穹の昴』とその続編『中原の虹』にも非常に重要な役どころとして出てきました。乾隆帝は大皇帝ならではの寛容さを備えた人物として、カスティリオーネも彼に心酔している人物として描かれていました。
でも実際は清朝という専制国家の大皇帝なのだから、浅田氏のキャラ設定は良い人過ぎだったという気もしなくもありません。

そして浅田氏のお話では、満州の清朝の皇族の墳墓で乾隆帝の命令どおりに亡くなったはずのカスティリオーネですが、この本では北京の屋敷で静かに亡くなったとのこと。
まぁ、どっちも小説ですからね。

by ciao_firenze | 2012-09-01 21:19 |

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