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『中原の虹・4』

懸賞 2010年 12月 09日 懸賞

『中原の虹・4』_f0179663_9174624.jpg浅田次郎『中原の虹』全編読了。


清朝滅亡後に成立した中華民国も、いまだ確たる求心力を持たず混乱が続いていたが、議会制民主主義を唱える宋教仁の国民党が総選挙で圧勝し、いよいよ中国は真の意味での近代国家として歩み始めるかと思えた。しかし、民衆の圧倒的な支持を得ていた宋は首都北京にいよいよ乗り込もうとした上海の駅頭で暗殺者の凶弾に倒れる。
天下の俗物・袁世凱は、立憲君主制を目指し、清朝に替わる中華帝国皇帝として紫禁城の太和殿で即位を強行するが、まったく予想外なことに民衆の激しい抵抗に遭って四面楚歌となり、自らが退位し、政局はますます混乱する。
そんな中、戊戌の政変後、日本に亡命していた「清国の良心」梁文秀の帰国を望む声が高まる。

一方、廃帝となった幼い宣統帝に仕える最後の宦官・春児は、生き別れた兄であり張作霖の腹心である李春雷と再会を果たす。
そして、満州で「東北王」として一大軍閥を形成していた張作霖は、ついに万里の長城を越えて中原になだれ込む。


壮大な近代中国史の物語はついに完結、かと思いきや、ここで終わるか?というのが本音です。この後の満州や中国をめぐる日本との歴史を知っているから、というのもあるのでしょうが・・・。
そして、某所のレビューにもありましたが、2巻で西太后が亡くなった後から、徐々に物語が失速してきた感は否めません。袁世凱、張作霖など、個性的な人物には事欠かないのですが、日本で言えば明治の末から大正となると、もはや「歴史小説」というよりも「歴史的事実」が先行する時代となり、そこにフィクションを盛り込むのが厳しくなってきたか、という感じです。
激動の時代なだけに、フィクションとしてのストーリーではなく、歴史的展開を追うのに手一杯だったのかな。春児や文秀など、『蒼穹の昴』からおなじみの人物たちへの比重がかなり軽くなっていたのが残念。
それに、『蒼穹の昴』から15年経ったとはいえ、春児も文秀も、性格が変わりすぎでは?

特に、日本の軍人・吉永中尉とその家族、「万朝報」の記者・岡をはじめとする日本人と、文秀らの中国人をめぐる人間関係があまりに偶然にもつながりすぎ。清朝滅亡と中華民国初期の人間関係は、春児兄弟たちを中心に回っていたのか?と言いたくもなります。

また著者の浅田氏は、満州族の長から、万里の長城を越えて中原の覇者・中華帝国の長となったヌルハチの子供や孫の世代と、満州の馬賊の長から中国全土の実権者となった張作霖を重ねようとしています。
たしかに、宦官の専横、無能な役人たち、軍事力の形骸化などにより滅亡した明朝と、清朝瓦解の過程はよく似ています。(それどころか、1800年前の漢滅亡から三国志の時代に入るあたりにも、清朝の衰退・滅亡の過程は驚くほど似ているとさえ感じます。)
まさに歴史は繰り返す、ということを言いたかったのか、『中原の虹』でも清朝成立の物語がところどころに織り込まれているのは、物語の厚みを増すと同時に、逆に混乱を招く恐れもあります。

劇的な展開、魅力的な人物たちによって織り成された『蒼穹の昴』の感動の嵐には、残念ながら及ばなかった、というのが個人的な感想です。
要するに、西太后ほどの求心力を持つ偉大な人物は、この小説にも、近代中国の歴史上にも、登場することはなかったのかな、とふと思います。

by ciao_firenze | 2010-12-09 10:05 |

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